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30話 二人の初めての夜

作者: 6jay
last update 公開日: 2026-09-20 00:15:25

 二人の初めての夜

日本代表を夢見て、夜明け前から水へ入っていた頃。

怪我をした肩が上がらず、歯を食いしばった頃。

別の道を選び、ゼロから積み上げ直した時間。

その全部が、朱里の手のひらの下にあった。

悠真が顔を上げる。

「痛い?」

「今はもう」

朱里は昔、病院で怖くて触れられなかった場所へ唇をつけた。

悠真の手が腰で一度固まり。

ゆっくり背中をなでる。

「あのとき、お前が来なかったら俺、本当にだめだったと思う」

「私がいてもだいぶひどかったよ。性格最悪だったし」

「それでも、お前の前ではなんとか立ってた」

冗談にしなかった声に、朱里が彼を見る。

悠真は指先で朱里の眉と頬のラインを順番になぞった。

見慣れた顔を、新しく覚え直すみたいに。

朱里はその手のひらへ頬を預けた。

悠真が笑わないまま、またキスをする。

寝室の前で、悠真はもう一度止まった。

朱里は先にドアを開けた。

少し前まで「悠真の部屋」としか思っていなかった空間。

ベッドの隅に適当に脱いだトレーニングウェア。

サイドテーブルのスポーツ科学の本。

充電器につながったスマートウォッチ。

全部知っている物だった。

知らないのは。

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